大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 平成4年(行ウ)4号 判決

原告

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

林伸豪

川真田正憲

被告

鴨島町長戸田稔

右訴訟代理人弁護士

田中達也

田中浩三

主文

原告の訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的)

被告が原告に対して平成四年五月八日付でなした鴨島町牛島第三団地町営住宅の入居不許可処分を取り消す。

(予備的)

原告が被告に対してなした鴨島町牛島第三団地町営住宅への入居申込みについて、被告の不作為が違法であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前

主文同旨

2  本案

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

原告は鴨島町に居住する住民であり、家族として妻春子、妻の子二郎らがいる。

被告は鴨島町長として同町町営住宅の管理をし、入居許可権限を持つものである。

2  本件不許可処分の存在

原告の妻は同和地区出身であり、原告ら家族は町営住宅のうちの同和地区出身者向けの住宅(以下「同和住宅」という。)に入居する資格を有するので、原告は、平成三年一二月一三日、被告に対し、同和住宅と一般住宅との混合住宅である鴨島町町営住宅牛島第三団地(以下「本件団地」という。)への入居許可申請(以下「本件申請」という。)をしたところ、被告は、部落解放同盟徳島県連合会西部ブロック協議会鴨島支部(以下「部落解放同盟」という、)の承認印のある町営住宅入居申込書(以下「付票」という。)がなく書類不備であるとして、原告に対し、平成四年五月八日付で不許可処分をした。

3  本件不許可処分の違法性

しかし、本件不許可処分は、以下のとおり違法である。

(一) 部落解放同盟の承認印のある付票の添付を同和住宅入居申請の条件にすることは違法である。このような付票の添付は、鴨島町の町営住宅条例、同施行規則、特定目的住宅入居者選考要綱、特定目的同和住宅取扱要領などのどの規定にも要求されていない。

そもそも、同和住宅入居申込みに特定の団体の承認印のある付票がなければ許可しないということは認められるべきことではない。これは結局、その団体が認めるものしか入居を許さないということであり、本来自治体が主体性をもって決すべき地方行政を民間の組織に任せることになる。特に同和運動のごとき対立が激しく、部落解放同盟のような組織が力を持っている分野においてはその誤りは甚だしいものとなる。被告は同和対象者かどうかはそのような団体でなければわからないというが、そんなことをいえば同和住宅入居に限らず、全ての同和対策に係る給付行政は全て部落解放同盟等の審査・承認印がいるということになる。全国のほとんどの自治体において現在、特定の団体の承認印等を徴するようなことは実施していないのであり、鴨島町のみ特定の団体に対象者かどうかの審査権限を与えなければならない必要はない。鴨島町には町営住宅入居者選考委員会があるのであり、必要ならばそこにしかるべき有識者を加えるなどして疑問のある場合はこれら町の機関で審査をすればよいのであり、それを部落解放同盟等の団体に任せてしまうというのは町としての責任放棄も甚だしい。

また、鴨島町内の同和世帯中、部落解放同盟に組織されているものは名前だけのものを含めてせいぜい一割程度であり、部落解放同盟は組織としての実体を備えていない。同和会に至っては組織すらあるとはいえない。町の組織する「鴨島町同和対策協議会」なるものをときにより同和会の名称で活動したようにしているだけである。ほとんどの同和地区住民はいずれの組織にも加入していないのが実態である。それにもかかわらず、被告のいうように同和住宅入居申込みに部落解放同盟(ないしは同和会)の了承印を必要とさせるということはいずれにも加入していないほとんどの同和地区住民には入居をさせないという差別行政ということになる。

(二) 仮に、同和住宅入居に運動団体の承認印のある付票がいるとしても、それは部落解放同盟のみでなく、原告の所属する全国部落解放運動連合会等の承認印についてもこれを認めるべきであり、本件申請は全国部落解放運動連合会の承認印を付してなされているのであるから、不許可にすべき理由はない。

また、本件団地は一般住宅との混合住宅であり、その違いは同和住宅としての入居は賃料が二五〇〇円であるのに対し、一般住宅としての賃料は一万六〇〇〇円という点にあるにすぎないのであるから、本件申請が一般住宅としての申込みの要件を備えている以上、一般住宅としての入居申込みは許可されるべきである。したがって、この意味からも本件不許可処分は違法である。

4  不作為の違法

仮に、被告が本件申請につき不許可処分をしていないとしても、被告は原告の本件申請を受理しているにもかかわらず、許可・不許可の判断をしていない。したがって、かかる不作為は違法である。

5  よって、原告は主位的には本件不許可処分の取消しを、予備的には被告の右不作為の違法確認をそれぞれ求める。

二  被告の本案前の主張

本件においては、入居不許可処分なる行政処分も、原告のいう被告の不作為も存在しない。したがって、本件訴えは訴えの対象を欠くものとしていずれも却下されるべきである。

すなわち、町営住宅の入居に関しては入居の申込みと入居の許可に関する定めについて、一定の資格者に許可できる旨の表現はあっても、許可をしなければならないとの定めはなく、不許可という行為についても定めがない。入居申込みがあった場合にこれに応答する必要があるという趣旨の定めもない。

また、もともと町営住宅入居許可の性質は、民法上の住宅賃貸借契約における賃借希望者からの申込みに対する家主の承諾という行為を、行政上のものに置き換えたものとみることができる。ただ、行政上の場合は、恣意による承諾(許可)は許されないから、条例等によって、その基準、方法を定めているにすぎないものである。したがって、申込みがあったとしても、許可する場合は別として、許可しない場合は、単に許可をしないという事実があるのみであって、そこに不許可という処分があるわけではない。一定の入居についての資格要件を備えていたとしても、許可が義務付けられる性質のものではない。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

被告の本案前の主張はいずれも争う。

1  公営住宅法は、一七条において公営住宅の入居資格を定め、同一八条においては入居の申込みをした者の数が入居させるべき公営住宅の戸数を超える場合においては住宅に困窮する実情を調査して政令で定める選考基準に従い、条例で定めるところにより公正公平な方法で選考して、当該公営住宅の入居者を決定しなければならないと定めている。すなわち、同法一八条によって、申込みが公営住宅の戸数を超える場合は、必ず申込者から入居を許可するものと許可しないものを決定しなければならないのであり、右決定は行政処分であることは明らかである。ところで、同法では入居の申込みが入居させるべき公営住宅の戸数を超えない場合ないし同数である場合について明文がない。しかし、これは申込者が、住宅の戸数の範囲内である場合は同法一七条の要件を充足させる限り、申込者に対し当然入居決定をすることになるところ、それはあまりに明らかであり、わざわざ明文を設けるまでもないから明文をおかなかったのである。公営住宅法の細則である鴨島町の町営住宅条例も同様の構造となっている。したがって、申込者が住宅を上回らない場合も入居許可決定という行政処分を行っているのである。

なお、同条例では八条の二によって、入居しようとする者は町営住宅申込書を町長に提出し許可を受けなければならないとし、六条によって入居申込者が住宅を上回る場合は選考のうえ入居者を決定することになっているが、これは公営住宅法一八条の決定処分の細目規定にあたるところ、右条例の規定からいっても、町長が入居申込みに対し、許可処分及びその反面としての不許可処分の応答をすべきことは明らかである。

2  本件住居の入居については公営住宅法の適用があるが、公営住宅の使用関係については、一般に、居住者保護の観点から賃貸借関係とみなされ、借家法が適用される私法関係と考えられている。しかし、公営住宅の入居手続に関しては、公営住宅が憲法二五条の生存権の確保に由来し、住宅に困窮する住民に低廉な家賃で公共の建物を居住用に提供することを目的とするものであることにかんがみ、公営住宅法は、行政において恣意的な運用がなされることのないように、契約自由を原則とする私法関係は排斥し、入居手続を法定してその入居の決定は行政処分としているのである。このように、公営住宅の入居に関する決定を行政処分とすることによって、公共団体の公共判断を通じて住民の生存権の基礎をなす公営住宅供給に対する行政責任の所在を明確にさせ、他方入居者等に対しては行政処分を通じて表示された行政責任を批判的に積極的に追及させる機能を果たすことが可能であると考えられるのである。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実中、原告が、平成三年一二月一三日、被告に対し、本件団地につき本件申請をしたこと、被告は本件団地への同和地区出身者としての入居申込みについては、部落解放同盟の付票を要する取扱いをしていること、被告は原告の本件申請について右付票の添付がなかったことから、書類不備であるとして、その申請書類を原告に返送したことは認め、その余の事実は否認する。

3  請求原因3(一)(二)の事実中、本件団地の賃料は一万六〇〇〇円であるが、同和地区出身者の賃料が二五〇〇円であることは認め、その余は争う。入居申込みは一般の場合と同和地区出身者の場合とでは家賃も入居選考も全く事情が異なる。

4  請求原因4の事実は否認する。被告は本件申請を受理していない。

五  被告の本案の主張

1  本件不許可処分の適法性について

仮に、本件不許可処分が存在するとしても、以下のとおり、その処分は適法である。

(一) 本件団地は法的には一般公営住宅(改良住宅)であって、同和向けの住宅ではない。したがって、一般入居者と同和者とでは極端に異なる家賃額の定めをしており、空家が多くなった場合、公募することも可能であり、また、公募しないで随時公募の例外措置によって入居させることも可能であり、それをどのように扱うかは法的には被告の裁量の範囲内である。原告が強制的に入居受付を強要し、入居許可を求める権利を有する性質のものではない。

(二)(1) 同和住宅については、鴨島町に古くから存在する部落解放同盟及び全国自由同和会徳島県連阿波麻植名西郡連合会鴨島支部という二つの同和団体のうち、いずれかから要望が出され、これに基づいて国の補助等の手続がとられてその住宅団地事業が行われてきた歴史がある。すなわち、団地ごとに部落解放同盟と全国自由同和会向けというように事実上区分けされ、これによって、永年の間、円滑に同和住宅に関する行政が行われてきたものである。

団地新設の場合の入居については、鴨島町が希望者を募り、これを検討、審査するけれども、同和地区出身者であるかどうか(本条例に照らすと、同条例八条一項イないしハ、二、三に該当するかどうか。)の判別は被告においては困難であり、右各団体の責任者に入居希望者を検討してもらうことによって判別し、同責任者立会のもとに入居に関する諸手続、注意・遵守事項等についての説明会や講習会を開いてきた。ところが、空家への新入居申込みに際して、申込み者が同和地区出身者かどうかについての判別方法は確立された方法がないまま、昭和五三年ころから、空き家への中途入居申込みが増えてきたため、昭和五四年三月ころ、当時の町長らが協議して、特定目的(同和向け)住宅の入居申込みについては、各団地に対する部落解放同盟もしくは全国自由同和会のいずれかの入居申込書付票を添付することとし、これによって判定にかえるとともに、併せて家賃、水道、電気、自治会費等の支払いや近隣でのトラブルが起こることのないよう責任をもってもらうこととした。その趣旨を両団体に伝えて協力を求め、以来、右付票を添付して申込みがなされてきているのである。

鴨島町内の同和地区出身者は右両団体のどちらかに所属しており、今日まで鴨島町には右以外の同和団体は存在しない。これらの点に照らすと、本件団地の入居申請に際し、部落解放同盟等の承認印を要求する被告の措置に違法はない。

(2) 原告が主張する全国部落解放運動連合会麻植支部は、被告が原告に明渡しを求めたのちになって、原告自身が被告に対抗する手段として結成したものにすぎず、従来、鴨島町にそのような団体は存在しなかった。右支部の支部長として名があげられている金井義明は原告の隣人であり、原告から名義上の支部長就任を以来したものと思われる。要するに、少なくとも原告が主張する平成四年五月八日現在においては、右支部に鴨島町における同和団体としての実態があったとはいえない、その結成時期は前記明渡訴訟係属中である。

(三) 原告は本件団地一七号室(以下「本件住居」という。)を被告に無断で居住・占有している。右住居は、被告が昭和五五年五月一日以降、山脇某を入居させており、平成三年九月分までは同人名義で家賃が支払われ、同年一〇月分以降は未納となっている。被告は、原告が右住居に入居していることが判明した平成三年九月一七日以降、原告に対し、不法入居であるから直ちに退去するよう口頭で催告した。その後、被告が右山脇を呼んで事情を聴取したところ、右山脇は、同年八月二三日ころに原告に鍵を渡したということであった。そこで、被告は同年一二月一〇日までに本件住居を明け渡すよう同年一一月二六日付の内容証明郵便で催告したが、原告はこれに応じないので、町議会の議決を経たうえ、明渡訴訟を提起している。本件申請は、被告からの右退去催告が始まってから後になって、その不法入居を正当化する目的でなされたものであり、許可することはできない。

原告がなんの入居手続もせずに、本件住居に不法入居し、被告の立退請求にも応ぜず、そのまま占有を継続しているのであるから、このような原告に対する被告の措置としてはなんらの違法も存在しない。被告としては、まず明渡しの即刻履行を求めているのであり、不法入居という行為を是正することを前提行為として要求しているのである。

なお、原告は妻春子と離婚しており、本件団地へ入居する資格を失っている。

2  不作為の違法確認について

仮に、被告が本件申請を受理しているとしても、以下のとおり、その不作為には違法はない。

すなわち、もともと町営住宅入居許可の性質は、民法上の住宅賃貸借契約における賃借希望者からの申込みに対する家主の承諾という行為を行政上のものに置き換えたにすぎないのであるから、一定の入居についての資格要件を備えていたとしても、必ず許可が義務付けられる性質のものではない。したがって、被告に不作為の違法は存在しない。

また、本件団地は法的には一般公営住宅であって、同和向けの住宅ではない。したがって、一般入居者と同和者とでは極端に異なる家賃額の定めをしており、空家が多くなった場合、公募することも可能であり、さらには、公募しないで随時公募の例外措置によって入居させることも可能であり、それをどのように扱うかは法的には被告の裁量の範囲内である。原告が強制的に入居受付を強要し、入居許可を求める権利を有する性質のものではない。

六  被告の本案の主張に対する原告の答弁

被告の本案の主張はいずれも争う。

公営住宅法は、一七条で入居資格(要件)を定め、一八条で入居申込者が入居させるべき公営住宅の戸数を超える場合について、政令で定める選考基準に従い、条例で定めるところにより、公正な方法で選考し入居者を決定すべきことを義務付けている。この規定の趣旨は、入居申込者が入居すべき公営住宅の戸数の範囲内である場合は一七条の要件を充足する限り入居を認める決定をし、申込者が戸数を超える場合にのみ選考の上いずれかに決定すべきとするものである。したがって、入居決定処分の性質は右のいずれかによって異なることとなる。前者の入居申込みが戸数を超えない場合は同法一七条の要件及び同法二五条による条例の定める要件を充足する限り、必ず入居許可を与えなければならない。その意味で右は羈束行為である。後者の入居申込みが戸数を超える場合は同法一七条の要件を充足するとともに、同法一八条による公営住宅施行令六条の選考基準及び町条例六条の選考基準に沿って入居者を決定しなければならない。右政令は選考基準を定め、その中から決定することを求めているから、事業主体の長に一定の裁量を認めている点で羈束裁量行為といえる。しかし公営住宅法一八条によって制定された町条例六条ではその二号において「町長は第一項各号に規定する者について住宅に困窮する実情を調査し、住宅に困窮する度合の高い者から入居者を決定する」ことを義務付けている。町長は右条例に反して住宅に困窮する度合の低い者を度合の高い者に優先して入居許可決定をすべき裁量の余地はない。したがって、公営住宅法上は入居申込者が上回る場合の選考基準の決定は羈束裁量であるが、同法に基づく町条例により鴨島町営住宅の入居許可決定処分は羈束裁量となっているというべきである。

公営住宅についてその入居許可決定に事業主体としての町の裁量を認めず、羈束行為(ないしは羈束裁量行為)としていることは、公営住宅の本旨からくるものである。すなわち、公営住宅は国民の生存権を住宅面から保障するために存在するが、そのためには住宅困窮者に対し、公平公正な手続により入居決定をすることが必要である。特に公平な選考はその生命である。このため、その入居決定基準は法律ないし条例等によってあらかじめ定めて住民に公開し、右基準のみによって決定されるべきであるとし、基準に反したり基準に合致しているにもかかわらず、決定者の主観、裁量あるいは政治的判断等によってこれを変更することを排斥しているのであり、それは極めて合理的というべきである。

第三  証拠

証拠関係は本件訴訟記録中の書証及び証人等目録の各記載を引用する。

理由

一  被告の本案前の主張について

1  成立に争いのない甲第一、第二号証、第一四号証の一ないし七及び第二八号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第二七号証、乙第七及び第八号証、証人小西斉の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(一)  本件団地は、住宅地区改良法二七条二項の規定により国の補助を受けて建設された町営住宅(以下「改良住宅」という。)であり、その入居関係については、住宅地区改良法、鴨島町営住宅の設置及び管理に関する条例、「特定目的住宅の取扱要領」がこれを規定している。鴨島町営住宅の設置及び管理に関する条例は、住宅地区改良法(以下「改良法」という。)及び公営住宅法の規定に基づき設置された町営住宅等の設置及び管理について必要な事項を定めたものであり、「特定目的住宅の取扱要領」は特定目的同和向住宅について、その入居手続等を定めたものである。

(二)  本条例上、改良住宅の入居については以下の規定がある。

第八条(改良住宅の入居等の資格等)

1  第三条から前条の規定にかかわらず、改良法第二十七条第二項の規定により国の補助を受けて建設した町営住宅(以下本条において「改良住宅」という。)に入居することができる者は、次の各号に掲げる者で、改良住宅への入居を希望し、かつ住宅に困窮すると認められるものでなければならない。

一  次に掲げる者で、改良法第二条第一項の住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失ったもの

イ  改良法第四条の規定による改良地区(以下「改良地区」という。)の指定の日から引続き改良地区内に居住していた者。ただし、改良地区の指定の日後に別世帯を構成するに至った者を除く。

ロ  イただし書に該当する者及び改良地区の指定の日後に改良地区内に居住するに至った者。ただし、改良法施行令(昭和三十五年政令第百二十八号)第八条の規定により、町長が承諾した者に限る。

ハ  改良地区の指定の日後にイ又はロに該当する者と同一の世帯に属するに至った者

二  前号イ、ロ又はハに該当する者で、改良地区の指定の日後に改良地区内において災害により住宅を失ったもの

三  前二号に掲げる者と同一の世帯に属するもの

2 前項の規定は改良住宅に入居することができる者が入居せず、又は入居しなくなった場合における当該改良住宅の入居者の資格等については、適用しない。

第八条の二(入居許可の申請)

第五条又は前条に規定する入居資格のある者で町営住宅に入居しようとするものは、町営住宅入居申込書を町長に提出し、その許可を受けなければならない。

(三) 「特定目的住宅の取扱要領」の規定は以下のとおりである。

鴨島町営住宅(特定目的同和向住宅)については、次のとおり取扱いする。

入居の資格(空家の入居についても次の各号の条件を具備すること。)

1  町内に居住するものであること。

但し、最近に於て町内に居住するに至ったものについては、適当と認めたものに限る。

2  別世帯を構成することが明らかであること。

註 現に同居し又は同居しようとする親族(未届の夫又は妻又は婚姻の予約などを含む)があること。

3  現に住宅に困窮すると認められるもの。

希望調書による事前調査

空家が生じたときは、別紙様式の希望調書を都市計画課長に提出する。

なお、この調書については、都市計画に於て事前審査を行う。

入居申込書の提出

調書による事前審査にて適当と判定されたものについて入居申し込書を受理する。

入居者の決定

住宅の困窮度の高いものから入居者を決定するが、判定が難しいときは、公開抽せんで入居者を決定する。

その他

イ  入居者については、同和対策課と協議の上決定する。

ロ  提出書類 鴨島町営特定目的住宅入居予約申請書、鴨島町営住宅入居予約申込書、家賃証明書、所得証明兼納税証明請求書、住民票

(四) 本件団地への入居手続の現実の運用については、「特定目的住宅の取扱要領」に基づいて行われていたが、提出書類としては「特定目的住宅の取扱要領」記載の提出書類のほか、町営住宅入居申込書(付票)(乙第八号証)の提出が要求され、右付票には自由同和会もしくは部落解放同盟の承認印が必要とされた。

(五) 原告は、「特定目的住宅の取扱要領」に基づき、平成三年一二月一三日、被告に対し、本件団地につき本件申請を行ったが、被告は原告の本件申請には付票の添付がなかったことから、書類不備であるとして、本件申請書類を原告に返送した。

2  以上の事実を前提に、被告の本案前の主張につき検討する。

(一)  本件不許可処分取消しの訴えについて

(1)  処分の取消しの訴えは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」をその対象とし、その取消しを求める訴訟である。ここにいう「行政庁の処分」とは公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確認することが法律上認められているものをいう。

したがって、処分の取消しの訴えの対象は「公権力の行使」に該当することが必要であるところ、公権力の行使とは、法が認めた優越的な地位に基づき、行政庁が法の執行としてする権力的な意思活動、すなわち、行政庁が相手方の意思のいかんにかかわらず一方的に意思決定をし、その結果につき相手方の受忍を強制しうるという法的効果をもつ行為を意味するものであり、換言すれば、いわゆる公定力を生ずる性質の行為である。

(2)  ところで、公営住宅の利用関係は基本的には対等な法主体間における契約上の権利義務関係にほかならないのであって、利用関係発生の原因である入居の許否関係も、法律が当該行政庁の優越的な意思の発動として行わせ、私人に対してその結果を受忍すべき一般的拘束を課すという「公権力の行使」には本来該当しないものと解するのが相当である。

本条例第八条の二(入居許可の申請)は、「第五条又は前条に規定する入居資格のある者で町営住宅に入居しようとするものは、町営住宅入居申込書を町長に提出し、その許可を受けなければならない。」と規定しているので、一見、入居「決定」という行政処分が予定されているようにみえなくもないが、同条例二条が「町営住宅 町が法(公営住宅法)及び改良法(住宅地区改良法)の規定により、国の補助を受けて建設し、町民に賃貸するための住宅及びその附帯施設をいう。」と規定していることや、改良法、公営住宅法、鴨島町営住宅の設置及び管理に関する条例及び「特定目的住宅の取扱要領」の各法令上、長の行為について不服申立てや取消訴訟に関する規定が全く存在しないことなどに照らすと、改良法、公営住宅法、鴨島町営住宅の設置及び管理に関する条例及び「特定目的住宅の取扱要領」の解釈としては、その入居手続にあたっての長の許可、不許可の決定は、公権力の行使には該当せず、抗告訴訟の対象とはならないものと解すべきである。そして、このように考えても、入居拒否に対しては損害賠償を求める等民事訴訟による救済の可能性も存在するから、救済の途がとざされるわけではない。

原告は、公営住宅の入居手続に関しては、公営住宅が憲法二五条の生存権の確保に由来し、住宅に困窮する住民に低廉な家賃で公共の建物を居住用に提供することが目的であることにかんがみ、公営住宅法は、行政において恣意的な運用がなされることのないように、契約自由を原則とする私法関係は排斥し、入居手続を法定することにしたものであるから、長の入居決定は行政処分であると主張する。

しかし、同法は、公共団体と住民との「契約」によって、公営住宅の利用関係は発生する旨規定する一方、公共団体が右契約を結ぶにあたっては、公営住宅設置の目的に照らして、その承諾の自由を規制したものとみることもできるのであって、原告の主張はこれを採用することができない。抗告訴訟が行政庁の行為に公定力がある場合にそれを消滅させるための特別な訴訟制度であることにかんがみれば、本件公営住宅への入居手続は抗告訴訟の対象とならないものというべきである。

二  不作為の違法確認の訴えについて

行政事件訴訟法において、不作為の違法確認の訴えは、抗告訴訟の一類型として、私人が行政庁の処分又は裁決を求めて法令に基づく申請をしたのに対し、行政庁が何ら応答しないことに対する不作為状態の解消を目的とするものである。したがって、申請の対象となる行政庁の行為は、処分性を有することが必要である。本件の場合、前記のとおり、原告の本件住宅への入居申請に対して対応すべき被告の行為は処分性を有しないから、本件不作為の違法確認の訴えも、訴えの適法要件を欠くものといわなければならない。

三  以上のとおり、原告の本件各訴えは、いずれも抗告訴訟として対象とならない行為を対象とするものであり、不適法なものといわざるをえない。

四  結論

以上のとおりであるから、その余の点については判断するまでもなく、原告の訴えはいずれも却下を免れない。

(裁判長裁判官朴木俊彦 裁判官近藤壽邦 裁判官三浦隆志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例